最近さぼり気味でしたが、久しぶりの投稿です。3~4月で資産+170%を達成させて頂きました。GWにも関わらず、機会損失に対する恐怖のあまりトレードをストップできずに全く心が休まっていない私です。今日はトレンドフォワーにとって興味深い本を紹介したいと思います。内容は結構難解でとっつきにくいのですが、基礎知識としては押さえておく一冊でしょう。投機についてネガティブなイメージをもっている方にも参考になるのではないでしょうか。
日本人が嫌うトレンドフォロー戦略についての詳細なレポート
トレーディングシステムを検証する際、少数の極めて限定されたデータではなく、手に入る限りのヒストリカルデータを使うことを推奨されています。そんな中、著者は1223年からの約800年分のヒストリカルデータを使ってトレンドフォロー戦略の有用性について記しています。コメ相場では西暦1000年まで遡ることができるようですが、この本の中では複数の投資可能な市場が存在した1223年から検証がされています。 ありとあらゆる歴史的局面において、優れた結果を残し続けてきたトレンドフォロー戦略。著者は決してこれが他の戦略よりも優れていると主張しているわけではありません。EMHやエクイティプレミアム、バイ&ホールドなどの概念を補完するものであり、ポートフォリオの中に組み込まれることでさらに高リターン・低ドローダウン化を計ることができるされています。私はこれはまさにその通りだと思います。私のようなピヨピヨの弱小個人トレーダーが採用するのは、メインはS&P500に連動するETFをドルコスト平均法でバイ&ホールドしつつ、余剰資金は2~3程度のクラスに分散された資産への投機的アクションプランを組み込んでいくことだと思っています。その一環としてのトレンドフォロー戦略は私もかなりおすすめできるものであると思っています。 本書の冒頭にはバークレイCTA指数におけるトレンドフォロー戦略とS&P500のトータルリターン指数のパフォーマンス比較がされています。昨今聖杯のような扱いをされているバイ&ホールド戦略ですが、著者たちの研究チームによる調査ではシャープレシオはほぼ同じようなパフォーマンスであったのに対し、最大ドローダウンはトレンドフォロー約19%に対し、バイ&ホールド約51%と明確な違いがあることが示されています。さらに、この2つを組み合わせた場合にはシャープレシオが大きく改善し、最大ドローダウンも約20%にまで抑制することができており、トレンドフォロー戦略を投資戦略に組み込むことで発揮される強力な補完性が示唆されています。 トレードを初めたばかりの方にはかなりハードルの高い本ですが、非常に有益な情報が得られます。また、タートルズ達の物語から数十年後経ち、トレンドフォロー戦略が今はどの程度ブラッシュアップされているかも想像できるようになります。その際、カーティス・フェイスが「タートル流投資の魔術」で繰り返し伝えていたシンプルさの重要性についてもかなり納得できる説明がされているのではないでしょうか。タートルの本を簡単にして内容を真似た書籍はいくつかありますが、本書は稀に見るそこからのアップデート情報が裏付けと共に得られる内容になっているのではないでしょうか。
過去800年におけるトレンドフォロー戦略のパフォーマンス
とても長い期間、トレンドフォロー戦略では株などの伝統的な資産との低い相関やポジティブスキュー(正規分布のベルカーブがプラスに偏っていること)、金融危機の際にも優れたパフォーマンスが発揮されていたことが明らかにされています。 いずれも重要なポイントですね。相互補完のために用いるべきはずの手法によってリスクだけが増大するのでは本末転倒ですしね。
まずは分かりやすくパフォーマンスから見ていきましょう。
バイ&ホールド | トレンドフォロー | |
平均リターン | 4.80% | 13.00% |
シャープレシオ | 0.47 | 1.16 |
※出典:バイ・アンド・ホールド戦略とトレンドフォロー戦略のパフォーマンスに関する統計(1223~2013年):パンローリング社
アンチも多いトレンドフォローですが、バイ&ホールドよりもはるかに優れたパフォーマンスになっていることがお分かり頂けると思います。このような違いが生じたことへの考察としては①アクティブ運用であったこと②方向的なバイアスがかかっていないことが挙げられています。
この結果に対する検証をすべく、さらに金利やまさにタイムリーなインフレ、そして市場ダイバージェンスなど状況が変化することによってパフォーマンスはどのように変化していったかも調査されています。
まずは金利ですが次の3つに金利を分けて評価をされていますが、どの場合も同じような結果となっています。
高金利期 | 低金利期 | 金利上昇期 | 金利下降期 | |
平均リターン | 15.5 | 10.6 | 11.9 | 14.4 |
シャープレシオ | 1.56 | 0.86 | 1.06 | 1.3 |
※出典:トレンドフォロー戦略の金利別パフォーマンス(1223~2013年):パンローリング社
一見すると高金利期のパフォーマンスが高いように思えますが、金利だけが影響を及ぼすわけではありません。実際に金利とトレンドフォロー戦略のパフォーマンスの相関は0.14とほぼ関係がないことが分かっています。金利の変化による影響を評価するためには金利がどう変化していっているかも重要な要素です。上昇期・下降期に分けて評価をすることでその影響も調査されています。結果として著者たちのチームはほぼ相関関係が0であったことまで突き止めています。このことから、トレンドフォロー戦略はいかなる金利が設定された環境下であろうとも機能し続けてきたといえるのではないでしょうか。 なお、同様にインフレ率もパフォーマンスとの相関が極めて小さいことが示唆されています。
また、トレンドフォローが素晴らしい結果をあげた時期を見ていくと、大恐慌や金融危機のあった時期と一致しており、著者はトレンドフォローとは市場ダイバージェンスのフォローであるとも言っています。
適応的市場仮説(AMH)とトレンドフォロー戦略
ここからの内容を見る前に、適応的市場仮説について初めて知ったという方は以前私の書いた記事を読んで頂ければと思います。
適応的市場仮説の下ではトレンドフォロー戦略は最も市況にマッチした場合には、以下のものを得ることができるとされています。
- クライシスアルファ
- 投機的リスクプレミアム
- リスクフリーレート
ただし、適応的市場仮説においては市場は次のような周期で市況は変化していくと考えられています。
- 競争が少ない
- 競争の激化
- 適応・進化して競争力を身に着ける
- 生き延びて競争を続ける
- 1の状態に戻る
2と3の間で適応ができない種(市場参加者)が絶滅(退場)していき、1の状態で生き残っていた種が利益を享受する。
当然、市場が最も効率的ではない状態は競争の少ない1にあたります、競争の激化により市場は効率的になっていきます。適応的市場仮説の発案者のアンドリュー・ロー先生は効率的市場仮説は間違っていない、ただ不完全であるといっています。この適応的市場仮説において効率化が進んだ究極の地点が効率的市場であるということです。市場が効率的になった場合がトレンドフォロー戦略の耐え時です。取引コストなどを加味した場合には、パフォーマンスがリスクフリーレートを下回るからです。この時期をどうやり過ごすかが重要な課題となってきます。
40年前の段階ではリチャード・デニス達がタートルズに伝授した方法が唯一の手段だったでしょう。詳細については以下の記事をご参考ください。
一回当たりの取引に対するリスクを許容可能な範囲に抑えて、つらい時期を耐え忍ぶというのが当時のやり方でした。ただ、現在ではトレード対象についても広く分散することを推奨しています。
投機的リスクプレミアムは幅広い資産クラスに動的に資産を配分して投機的に賭けることで得られる
つまり平時のシナリオではバイ&ホールドよりもパフォーマンスが劣ることもあるかもしれませんが、市場の需給バランスが大きく崩れた時には効率性が失われてダイバージェンスが大きくなり、最高のクライシスアルファが得られるということです。
当然、いつどこで大きなトレンドが起きるかなど分かるわけもありません。だからこそ、自分の好きな金融商品だけに両足を突っ込んだポートフォリオを構築するのではなく、あらゆる資産クラスに資金を配分していくことが重要になってくるということを著者は主張しています。
しかしながら、時間的にも資金的にも情報的にも制約の大きい個人がどうやって生き延びていくのか。多くの資産クラスそれぞれに複数の種類のトレンドフォローシステムを構築して資金を配分して管理していく。特に多数の資産クラスへの配分は現実的ではありませんよね。私個人としてはこれはもう大口よりも狭い範囲でトレードをし、許容リスクを広げる以外に選択肢はないと思っています。だからこその冒頭に述べた戦略を採用することを提案させていただいているのです。
S&P500の暴落気にトレンドフォローは大きな成果を上げ続けてきました。トレードで一発逆転を狙っている方は別ですが、あくまでも堅実な投資戦略の1つとして、ヘッジのためのトレンドフォロー戦略を提案しているのが本書であると考えています。内容も面白いですし、適応的市場仮説やタートルズが好きな方も一読する価値は間違いなくあるでしょう。 個人的にはトレンドフォローにおけるエントリールール作りの上での強度評価信号の作り方は目から鱗の思いでした。Twitterなんかで流れてくるエントリールールはトレンドフォローだけに留まらず[0,1]信号の場合がほとんどです。ここまで進化しているのかと素直に関心した次第でございました。
トレンドフォロー戦略は過去800年にわたりクライシスアルファからのチャンスを見出すことができていた数少ない戦略です。これは市場のダイバージェンスが大きくなった時であっても、流動性の高さと低リスクでのマネジメント、そして行動バイアスに縛られないことで実現できているとされています。適応的市場に適応し続けてきた手法、取り入れることを検討してみてはいかがでしょうか。
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